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日本経済新聞(2018年11月29日)もっと関西 とことんサーチに古まんが掲載
「創業○年」老舗の裏付けは?(もっと関西)
とことんサーチもっと関西
コラム(地域)関西2018/11/29 11:30
大阪や京都の繁華街では「創業○年」と掲げた看板が目につく。都を中心に発展した近畿に老舗と呼ばれる企業や店舗が多いのは理解できるが、創業の歴史をどうやって証明しているのだろうか。度重なる災害などで資料が散失していないのか?調べてみると、先祖から受け継いだ文書だけでなく、様々な方法で裏付けていることが分かった。
「創業時資料ない」
まず、578年創業で「日本最古の会社」とされる寺社建築の金剛組(大阪市天王寺区)を訪ねた。四天王寺(同区)建立のため、聖徳太子が朝鮮半島から招いた建築士、金剛重光を創業者とする。さぞや立派な資料が残っているのかと思ったら、出迎えてくれた刀根健一社長は「創業当時の資料は全くない」ときっぱり。
刀根社長によると、四天王寺の度重なる焼失で境内に保管されていた資料はほとんど残っていないという。現存する最古の資料は1600年ごろに作られた金剛家当主の家系図。「用明天皇の皇太子(聖徳太子)が寺院を建てるため呼び寄せた」と始まりが記載されている。720年成立の日本書紀にも同様の記述があることから、ほぼ間違いないとみられるが、「確たる証拠はない」(刀根社長)。
それでも「578年創業」とする理由は何か。歴史研究家などが四天王寺の創立(593年)から割り出したとされ、国内外の調査機関も信用しているという。刀根社長は「四天王寺が最大の証拠。1400年以上、お抱え大工として補修を任されてきた歴史は紛れもない事実」と話す。
帝国データバンクの調査によると、2018年時点で創業100年を超える企業は全国で約3万1千社。東京都の約3100社が最も多く、大阪府は2番目の約1700社、京都府は1300社余で4位だ。
「粟(あわ)おこし」で知られる駄菓子メーカー、つのせ(大阪市住吉区)は1752年を創業としている。同社の中村一三社長に聞くと「創業に関する記録はないが、江戸時代の地図や作品が歴史の証明になった」と教えてくれた。
同社が保管する江戸時代に発行された書籍や当時の大阪の地図には屋号である「二ツ井戸」がたびたび登場する。人形浄瑠璃で有名な近松門左衛門の作品「生玉心中」にも「粟おこし」が描かれている。これらの資料が代々伝わる創業年を裏付けるものとみている。中村社長は「大阪の中心に店があったからこそ当時の記録が残っていた。幸運だった」と笑顔で話す。
創業年が記された資料を受け継ぐケースもある。
国内で4番目に古い創業とされる城崎温泉(兵庫県豊岡市)の旅館「古まん」。22代当主の日生下民夫さん(49)によると、先祖代々受け継ぐ巻物「日生下氏家宝旧記」には「養老元年(717年)に僧侶が訪れ3年間修行をすると温泉が湧いた」との記述がある。巻物は江戸時代に書かれたものだが、口承で伝わる日生下家のルーツを当時の当主がまとめたという。
旅館を訪れた複数の歴史研究家から「信ぴょう性は高い」とお墨付きを得たといい、「城崎温泉全体の歴史の証明にもなり、共通の財産だ」と日生下さん。
法律、規定設けず
そもそも「創業○年」「元祖」「本舗」といった文言を商品などに表記する際のルールはあるのか。不正競争防止法は商品の産地や成分の表記について定めているが、ルーツに関する規定を設けた法律はない。トラブルに発展することもあり、最近では京都の銘菓「八つ橋」の創業年を巡って京都地裁で老舗同士が争う訴訟も起きている。
老舗の経営史に詳しい高知工科大の前川洋一郎客員教授は「老舗にとって創業年の正確さは会社の信用に直結する。歴史的裏付けのない言い伝えなどは『推定』『伝承』との注意書きをすべきだ」と指摘する。
その上で「天災や戦争によって資料がほとんどなくなっても諦めるのはまだ早い」と強調。先祖の墓がある寺院や親族の倉庫を整理すると新しい資料が見つかることもあるといい、「常に自らのルーツに関心を持ち、アンテナを張り続けることが大切だ」と話す。
(大阪社会部 大畑圭次郎)
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