新甲子温泉 甲子高原フジヤホテル(しんかしおんせん かしこうげん ふじやほてる)(福島県)

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全778件 21~25
  • 【フローに至る死の危険】
    終戦日に向けて戦争ドキュメンタリーが放送される8月は、一年で最も死について考える月だと思います。二度の原爆投下による市民の殺戮とソ連の参戦、そして最悪の航空機事故で多くの人がむごい形で人生を終わらされたのも34年前の昨日です。当たり前のように朝が来て、大半の人が平和な死を迎える現代に、毎年3万人が自らの生命を絶たなくてはならない皮肉を考えます。生きる時間を制限する死は同時に人生に意味を与え、真剣に生を考え丁寧に生きるきっかけになると思います。先日、山での事故で身近な人の訃報に接しました。山は常に死と隣り合わせという点で他のレジャーと異質です。一見平和に見えるのどかな稜線も、一瞬の判断ミスや不注意で滑落をすれば助からないところばかりです。先日行った南アルプスの荒川三山手前のカール大斜面は岩が大崩壊地側に崩れたことで、標高差600mのナイフリッジとなり、どちら側に落ちても助からない危険地帯でした。エクストリームスポーツのアスリートがフローに入りやすいのは、死の危険が集中力を高めるからに他ならないと思います。

  • 【食べない喜び】
    昨年盛り上がった人生100年時代というキーワードは鳴りを潜めた印象があります。人の寿命は先進国を中心に伸び続け、2007年生まれの日本人の半分は107歳まで生きると予測されますが楽観的に聞こえます。医療技術が進歩しても人生100年時代は来ないと思います。長寿の頂点にいる今の日本人は、大正・昭和の「欲しがりません勝つまでは」の窮乏時代を生きた世代で、少ないカロリー摂取と食物繊維や乳酸菌、ビタミン、ミネラルを摂る当時の食事が長寿に適することは世界的な合意が得られています。一方の現役世代は、大量生産される発がん物質まみれの食事、栄養価の低い野菜、子供の頃からエナジードリンクを飲みグルコーススパイクを繰り返す食習慣など、戦後いち早い食の米国化で子供が先に死ぬようになった沖縄の悲劇を繰り返しています。美しい花を咲かせるには大量のエネルギーを使うように、美食やアルコール摂取は体を消耗させる一種の自傷行為ですが、飲食による快楽を礼賛する社会において食べないパラダイムは受け入れ難いものです。誘惑の多い飽食時代の今はむしろ食べないことが善であり、食べないことによる内面の静けさに喜びを見出すことで食べる感覚が研ぎ澄まされると思います。

  • 【執着という名の荷物】
    山から戻り数日しか経たないのに、すでに夏山への憧れは募るばかりです。わずか5日ながら、コンビニもなく携帯の電波も届かない、布団も風呂もない山籠り生活はなぜかとても贅沢な消費に思えます。俗世間と距離を取り暮らす隠遁生活がいつの時代も魅力的に映るのは、極限まで肥大化した欲望が跋扈する社会に暮らす反動かもしれません。そのストイックさを心地良く感じるのは、世俗にまみれた生活の雑音が、自分が何者かを確認する術さえかき消すからで、本来の自分に近づくには最小限の荷物を背負い自然に身を晒す旅が最良だと思います。食料やテントを持つと、その重みで体は自由を奪われ運動能力が低下します。荷物の減った下山前日には体力が温存され行動距離が伸び、茶臼小屋に荷物を置き予定になかった光岳までのコースタイム12時間を空荷でピストンしました。ほとんど荷物を持たないトレイルランニングならハイカーの倍程度の距離を移動でき、その魅力は身軽さにより自由を謳歌する開放感です。執着という名の荷物を減らすと遠くに行けるのは人生も同じだと思います。

  • 【悟りを求める冒険旅行】
    登山者の少ない南アルプスではハイカー同士の接点が濃厚になり、そこに生き様を感じます。20kg超の荷物を背負う伝統的な縦走スタイルが今も主流な一方で、2、3kgの最小限の装備で肉体の限界に挑むタイムトライアルも見かけます。三伏峠下の鳥倉ゲートから赤石岳までのコースタイム片道19時間10分を往復する人に会いました。40時間近いコースタイムを日帰りするなど3,000メートルを超える登山の常識では考えられませんが、これらの人は例外なく世界最長415kmのトレイルレースTJARに向けたトレーニングです。日本海から太平洋に至る3つの日本アルプスを含む累積標高27,000mを、サラリーマンが取得可能な1週間(8日以内)の休暇で縦走するレースは、自分の限界を引き出す修行の場に他なりません。注目を集めるレースとなれば簡単に投げ出すことができなくなります。欲望を断って心身を鍛練し浄化する点において、日本古来の山岳信仰を基礎とする修験道と同じです。我欲にまかせた快楽や安楽な生活に耽る人が多いなか、真理や悟りを求める刺激的な冒険旅行こそが人間本来の姿を思い出させてくれると思います。

  • 【贅沢の本質】
    南アルプスの魅力は雄大で、造山運動が今も続いていることを思わせる荒々しい岩壁、豊富な水と稜線を覆う花畑です。とりわけ魅力的なのが、アクセスが悪く長大な稜線に山小屋が少ないために人を寄せ付けない静かな山域という点です。昼間はひたすら距離を稼ぐために筋肉を動かし、夜は都市が失った暗闇と静けさに癒やされる動と静の両面こそが山旅の魅力だと思います。にぎやかだった鳥の声が日没とともにやがて遠ざかり、時折上空を通過するジェット機の音以外は無音の暗闇が広がります。夜中に見上げた満天の星空は非現実的な光景で、テントをたたく雨音さえ贅沢に感じられ、不都合や不快を取り除くことで進化した都市生活が失った本来の居場所を教えてくれます。写真は茶臼岳直下に張ったテントから見た、刻々と表情を変える朝焼けの富士です。下界の蒸し暑さと無縁の寒さに寝袋を重ねたテントからこの景色を見ていると、執着の延長にある贅沢が本質でないことが分かります。

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